プラザキサ 製品紹介直接トロンビン阻害剤の可能性を探るスペシャルインタビュー

血管透過性に対する影響から
直接トロンビン阻害剤の特徴を考える

伊澤 良兼 先生

伊澤 良兼 先生

慶應義塾大学医学部 神経内科

抗凝固薬は、その作用機序から常に出血性合併症のリスクが隣あわせにあります。特に、脳内出血発現例では予後が不良となることが明らかになっており、脳内出血の発現予防は臨床的に大きな意義があると考えられます。一方、近年では脳内出血と血管透過性の関連性を示す研究結果が報告されています。
そこで今回は、脳内出血と血管透過性の観点からみた直接トロンビン阻害剤の特徴について、慶應義塾大学の伊澤 良兼先生にお話を伺いました。

脳内出血の発現機序

Q.脳内出血はどのような機序で発現すると考えられているのでしょうか。

脳内出血が起こると脳組織が強く破壊されてしまうため、その機序を病理学的に特定するのは難しいのですが、主な機序は「微小動脈瘤の破裂」、「血管平滑筋の変性・消失による細小動脈の血管壁破綻」、「毛細血管における血液脳関門の破綻」であると考えられます。

今回は、「毛細血管における血液脳関門の破綻」に着目します。まず、脳虚血病態を理解するための概念として提唱されている“Neurovascular unit”について説明します。これは各種細胞からなる脳の機能的な最小単位ともいえる概念的な枠組みであり、主な構成要素として、神経細胞、アストロサイト、マイクログリア、血管内皮細胞、周皮細胞などが含まれます。血液脳関門は、脳組織に特徴的な血管壁の構造に由来するバリアであり、毛細血管内腔から脳実質への分子の移動を制御しています。具体的に血液脳関門は、血液が流れる内腔を覆う内皮細胞、その外側を裏打ちする基底膜、さらにその外側を覆うアストロサイトから構成されています(図1)。

そして、脳の毛細血管では内皮細胞同士が、内皮細胞間の間隙にあるタイトジャンクションによって非常に密に接着しており、血管透過性を低下させることに大きく寄与しています。タイトジャンクションは、claudin-5、occludin、zonula occludens-1(ZO-1)などの分子が組みあわさることで形成され、特に脳ではclaudin-5が血管透過性を決定する重要な因子であると言われています。これらの機能が破綻し、血管透過性が亢進することによって脳内出血や脳浮腫が起こると考えられます。

Q.脳血管障害の急性期には血管透過性が亢進しているのでしょうか。

臨床的な観点からみると、脳血管障害の急性期に血管透過性が亢進していることは明らかであると思いますし、脳のCT検査やMRI検査では脳浮腫が確認できます。その機序について考えてみましょう。

一般的には、脳梗塞や脳内出血が起こると、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などのプロテアーゼが活性化され、タイトジャンクションが分解・減少し、その結果として、血管透過性が亢進し、脳浮腫やNeurovascular unit機能の破綻が生じると考えられてきました。各種MMPは周皮細胞、アストロサイトなどから分泌され、特にMMP-2やMMP-9などが基底膜のマトリックス分解に重要であると考えられています。しかし、これらのプロテアーゼがタイトジャンクションを直接分解することを分解産物の証明などから示したデータは限られており、プロテアーゼの活性化からタイトジャンクションの減少までのプロセスに関する詳細は明らかになっていません。

こうした中、2011年に私が留学していた米国ワシントン大学(University of Washington)の研究室から、脳梗塞発症時における血管透過性亢進の機序解明に重要なヒントを与える研究結果が報告されました1)。本研究では、β1インテグリンの機能を特異的に阻害する抗体をマウス脳由来の微小血管内皮細胞に暴露させると、タイトジャンクションを形成する蛋白質の一つであるclaudin-5が減少し、血管内皮透過性が亢進することが確認されたのです。この報告により、基底膜と血管内皮の垂直方向の結合が、血管内皮細胞間のタイトジャンクションによる水平方向の結合を調節する可能性が初めて示されました。おそらく、基底膜が分解されることにより、間接的にタイトジャンクションが消失し、内皮細胞間の透過性が亢進し、血管外腔にプロトロンビンなどの血漿蛋白質が漏出し、それらが脳浮腫や、神経細胞およびアストロサイトの障害につながるのではないかと推測されます(図2)。

トロンビンに着目すれば、トロンビンが周皮細胞に働きかけ、周皮細胞からのMMP-9の分泌を促進することを示した研究結果2)が最近報告されていますし、トロンビン自体が神経組織に障害的に作用すると言われています。

脳梗塞発症時だけでなく、脳内出血発現時における脳組織の障害にもトロンビンが関与することが報告されています3)。このように、脳梗塞や脳内出血の病態には血液脳関門の破綻が深く関わっており、また、血液脳関門の破綻にはトロンビンやMMPなどのプロテアーゼが関与すると考えられます。

血管透過性に対するプラザキサの影響

Q.トロンビンおよびその阻害剤であるプラザキサは、血管透過性にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

トロンビンは凝固系に関わる重要な因子ですが、凝固系以外の作用も有しています。例えば、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)を介して、または基底膜の分解やMMP-9の産生を促して、血管透過性を亢進させることが知られています(図3)。これまでに脳基底核にトロンビンを注入するとMMP-9の発現が増え、脳浮腫の原因になること4)や、側脳室にトロンビンを注入するとPARを介して血液脳関門の透過性が亢進し脳浮腫の原因になる可能性5)などが報告されています。

そこで、留学先の研究チームではトロンビンならびに直接トロンビン阻害剤であるプラザキサの脳血管内皮透過性に対する影響を検討しました6)。はじめに実験モデルについて説明します(図4)。

直径1cmくらいの容器(well)の内側にインサートと呼ばれる別の容器を入れます。インサートの底は微細な穴が開いた膜構造になっており、膜の表側に脳の血管から採取した内皮細胞を培養し、インサートの中に蛍光物質フルオレセイン(FITC)で標識したデキストランを添加します。そして、インサート外側のwellの液中に含まれるFITCの蛍光強度を経時的に測定することで、FITCデキストランの移行量を算出し、脳血管内皮細胞の透過性を評価しました。

まず、トロンビンの血管透過性への影響を検討するため、この実験モデルにトロンビンを添加して1時間培養した後に透過性を測定しました。その結果、トロンビン濃度の上昇に伴って4-kDa FITCデキストランのwellへの移行量が増加したことから、トロンビンは脳血管内皮細胞の透過性を亢進させることが示されました。次に、ダビガトランを24時間前に添加して培養した後に同様の実験を行ったところ、トロンビン添加時においても、血管内皮透過性はトロンビン無添加時の値のままで抑えられていました(図5)。

また、インサート膜の裏側にアストロサイトを培養し、脳の毛細血管で観察される血管内皮細胞とアストロサイトの二重構造を再現して同様の実験を行った結果、FITCデキストランの移行量は全体的に低下しましたが、先の結果と同様にダビガトランで前処理することで、トロンビンによる血管透過性の亢進に影響を及ぼすことが確認されました。

Q.血管透過性の観点から、直接トロンビン阻害剤と第Xa因子阻害剤にはどのような違いがあると考えられますか。

トロンビンの作用に焦点をあてて考察をお話ししたいと思います。トロンビンや第Xa因子などが作用するPAR-1とPAR-3は、細胞膜外のドメインが切断されることで活性化され細胞内にシグナルを伝達すると言われています。Stavenuiter Fらの報告7)では、PAR-1はトロンビン、第Xa因子ともにArg41で切断されますが、PAR-3はトロンビンではLys38、第Xa因子ではArg41で切断されることが示されています。この中で、トロンビンが作用した場合には、アミノ酸配列39番目の残基から先が残ったPAR-3とPAR-1が二量体を形成し、最終的には血管透過性を亢進させるのに対して、第Xa因子が作用した場合には、アミノ酸配列42番目の残基から先が残ったPAR-3とPAR-1が二量体を形成し、最終的には血管透過性を低下させる可能性が報告されています。PAR-3が脳血管内皮細胞で発現しているのか、あるいは二量体を形成するのかなど、さらなる検討が必要であると思いますが、PARを介した血管内皮細胞への影響ついて、直接トロンビン阻害剤であるプラザキサは、トロンビンによる血管内皮透過性の亢進に影響を及ぼす可能性があります。

また、虚血巣では血管壁外周にフィブリン形成が確認されており8)、虚血後には血管外腔にプロトロンビンを含めた凝固因子が漏出する可能性があります。すなわち、虚血巣あるいは出血部位でフィブリンが生じると、フィブリンに結合する形でトロンビンも存在すると推測されます。プラザキサはフィブリンに結合したトロンビンに結合し直接阻害しますので、血管外腔に存在するフィブリン結合トロンビンの作用を阻害することで、トロンビンによる血管透過性の亢進に影響を及ぼす可能性があります。

このように、トロンビンについては血管透過性を亢進することが示されており、第Xa因子を用いた同様の実験を行ってはいないものの、トロンビンの作用を直接阻害するプラザキサと第Xa因子阻害剤では、血管透過性に対する影響が異なる可能性があるのではないかとも考えています。

今後の取り組みについて

Q.最後に今後の研究の方向性について教えてください。

脳虚血が起こると、さまざまなプロテアーゼが活性化され、タイトジャンクションの減少を介して血管透過性が亢進しますが、その機序には未解明の部分が多いと思います。トロンビンは、おそらくPARなどさまざまな機序を介して、最終的にタイトジャンクションに作用すると考えられますが、今後は、トロンビンを含む各種因子によるタイトジャンクションの調節機構に関する研究を進め、脳梗塞や脳内出血の一因となる血液脳関門の破綻の流れを解明することで、より安全で効果的な抗凝固療法の確立に貢献していきたいと考えています。

本日はありがとうございました。

文献
  • 1)Osada T, et al. J Cereb Blood Flow Metab 2011; 31: 1972-1985.
  • 2)Machida T, et al. Neurosci Lett 2015; 599: 109-114.
  • 3)Keep RF, et al. Lancet Neurol 2012; 11: 720-731. 
  • 4)Kawakita K, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis 2006; 15: 88-95.
  • 5)Liu DZ, et al. Ann Neurol 2010; 67: 526-533.
  • 6)Hawkins BT, et al. J Cereb Blood Flow Metab 2015; 35: 985-992.
  • 7)Stavenuiter F, et al. Blood 2014; 124: 3480-3489.
  • 8)del Zoppo GJ, et al. Semin Thromb Hemost 2013; 39: 856-875.