プラザキサ 製品紹介直接トロンビン阻害剤の可能性を探るスペシャルインタビュー

血液凝固学におけるトロンビンの作用から
直接トロンビン阻害剤の特徴を考える

北島 勲 先生

北島 勲 先生

富山大学大学院 医学薬学研究部
臨床分子病態検査学講座 教授

ワルファリンと作用機序の異なる経口抗凝固薬は非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)として一つのカテゴリーに分類されますが、NOACの中でも直接トロンビン阻害剤と第Xa因子阻害剤では作用点が異なります。また、血液凝固反応において中心的な役割を担うトロンビンの作用は多彩であり、抗凝固薬の特徴を理解するうえで重要です。
そこで今回は、血液凝固学の観点からトロンビンの作用と直接トロンビン阻害剤の特徴について、富山大学の北島 勲先生にお話を伺いました。

血液凝固カスケードにおけるトロンビンの作用と
血栓形成のメカニズム

Q.はじめに血液凝固カスケードにおけるトロンビンの作用について教えてください。

トロンビンはセリンプロテアーゼというタンパク分解酵素です。活性中心は深く切れ込んだ裂け目(canyon)の奥にあり、プロトロンビンからトロンビンに活性化されることで表面に出てきます。主な結合部位として陰イオン結合部位(exosite)があり、exosite IはフィブリノゲンAα鎖やG蛋白質共役型受容体であるプロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)と、exosite IIはヘパリンと結合します。

血液凝固カスケードは外因系と内因系に分かれていますが、それぞれが独立した経路ではなく相互に作用しています(図1)。例えば、外因系凝固は開始因子である組織因子が第VII因子に結合し(第III因子・第VII因子複合体)、活性化することで開始しますが、この複合体は内因系の第XIa因子が第IX因子を活性化する過程にも作用しています。

トロンビンは、血液凝固カスケードにおいて最終段階の反応であるフィブリノゲンからフィブリンへの変換、安定化因子と呼ばれる第XIII因子の活性化を介したフィブリン塊の形成、PARを介した血小板凝集作用を有しています。さらに、内因系の第V因子、第VIII因子、第XI因子の活性化を介したpositive feedback作用があり、少量でもトロンビンが産生されると凝固反応を加速させトロンビン産生を自ら促進します(トロンビンバースト)。
また一方で、トロンビンは正常な血管内皮細胞に発現したトロンボモジュリンと結合し、プロテインC活性化を誘導します。これがプロテインSとの複合体形成を介して第Va因子と第VIIIa因子を不活性化し、トロンビン産生にnegative feedbackをかけて凝固反応を抑制することで、向凝固作用と抗凝固作用のバランスを調整する役割を担っています。

Q.血栓症はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。

血栓形成のメカニズムは、生理的な止血と病的な状態である血栓症で異なります(図2)。

生理的な止血では、血管損傷などによって血管内皮細胞が剥がれ、露出された内皮下基質のコラーゲン線維などが止血作用の器質となります。この場合は、外因系凝固が主体となって働き、組織因子と第VII因子が結合して活性化することにより適度のトロンビンが産生されることで止血が完了して凝固反応がストップします。一方、血栓症では、活性化血小板や凝集塊中の赤血球などが血栓形成の足場となります。この場合は、外因系凝固と同時に、内因系凝固が強く働くことで、トロンビンが大量に産生され血栓形成が進行します。以上により、過剰に産生されたトロンビンの活性を抑えることが血栓症を予防・治療する際の重要なポイントになると考えられます。

直接トロンビン阻害剤プラザキサの特徴

Q.ワルファリンとNOACではどのような違いがあるのでしょうか。

ワルファリンは、ビタミンK依存性凝固因子であるプロトロンビン、第VII因子、第IX因子、第X因子を阻害します。血液凝固カスケードは上流より下流に向かってコントロールされていますので、ワルファリンによって阻害される凝固因子は上流に位置する第VII因子から第IX因子、第X因子の反応が抑制されます。一方、第Xa因子阻害剤では第X因子活性の抑制により、それ以下に位置するトロンビンへの変換速度が低下します。これに対して、直接トロンビン阻害剤では一番下流に位置するトロンビン活性が抑制されます。実際に、私たちの施設で第VII因子の活性を調べたところ、ワルファリン投与後には著しく低下しましたが、NOAC投与後は変化が小さく、基準範囲内の変動に留まりました。このように、NOACでは組織因子と第VII因子の結合によって開始する外因系凝固に対する影響は少ないと考えられています。

一方、大規模臨床試験においてNOACはワルファリンと比較して頭蓋内出血発現率が低いことが示されています1-5)。さらに、NOAC投与下における頭蓋内出血発現例では、ワルファリン投与下と比べて血腫サイズが小さく、血腫拡大が起こりにくいとの報告6,7)もあり、血液凝固カスケードにおける作用メカニズムの違いが、これらの要因の一つとして影響している可能性が考えられます。
また、その他の要因として血中濃度半減期の違いによる影響も大切な論点であると思います。血中濃度半減期が長いワルファリンでは血中濃度がほぼ一定に維持されていますが、NOACでは血中濃度半減期がワルファリンに比べて短く、血中濃度が最低値になるトラフ期と最高値になるピーク期が存在します。そのため、NOAC投与下で出血が起こったとしても、トラフ期に出血リスクが低下することで血腫サイズが比較的大きくならないことも推定されますが、出血を起こした後の止血機構や血腫サイズに関して大規模臨床試験などによる十分なエビデンスはありませんので、今後のさらなる検討が必要であると思います。

Q.ヘパリンとプラザキサではトロンビン阻害作用にどのような違いがあるのでしょうか。

直接トロンビン阻害剤であるプラザキサがトロンビンの活性中心に選択的・可逆的に結合して直接阻害するのに対して、ヘパリンは生理的な抗凝固作用を有するアンチトロンビンへの結合を介してトロンビン活性を阻害します。アンチトロンビンはトロンビンの活性中心に結合して抗凝固作用を示しますが、ヘパリンがアンチトロンビンに結合することによって立体構造が変化し、その作用はアンチトロンビン単独時と比べて約1000倍高くなると言われています。

また、アンチトロンビンはフィブリンと結合したトロンビンとの結合が低下するという報告がありますが、プラザキサは小さな分子であるため、遊離トロンビンだけではなくフィブリンと結合したトロンビンにも同様に結合して、その作用を阻害することが明らかにされています(図3)。

前述したように、血栓症はフィブリンクロットが足場となって血栓が増大します。その足場には赤血球膜や血小板上のリン脂質の存在が大切で、フィブリンクロット上のトロンビンへの各薬剤の結合に対する違いは臨床的な特徴を考えるうえで重要であると思います。

Q.第Xa因子阻害剤とプラザキサではどのような違いがあるのでしょうか。

トロンビンの作用を軸にして、第Xa因子阻害剤と直接トロンビン阻害剤であるプラザキサの違いをお話しします。まず、第Xa因子阻害剤は第Xa因子を阻害することによってプロトロンビンからトロンビンへの変換速度を抑制しトロンビンの産生量を抑える薬剤であり、薬理作用としてはワルファリンと似ていると考えられます。一方、プラザキサはトロンビンの活性中心に結合し、トロンビンの作用を直接阻害しますのでトロンビンの産生量よりは質を変化させる薬剤と考えています。

この薬理作用の違いから血液凝固反応に対する影響を考察したいと思います。まず、血液凝固反応は初期に少量のトロンビンが産生され、これが血小板を活性化します(開始期)。そして、活性化された血小板は血液凝固カスケードの上流にあたる第V因子、第VIII因子、第XI因子などの活性化を介してトロンビン産生を増幅し(増幅期)、さらに第X因子が活性化されトロンビンのpositive feedbackを介したトロンビンバーストが起こり(増大期)、血栓形成が進行します。第Xa因子阻害剤は、増大期に重要な役割を担う第Xa因子の活性中心に作用し、トロンビンバーストを抑制しますが、トロンビンの直接阻害作用は低いと思われます。したがって、開始期で産生される少量のトロンビンは残存していると推測されます。一方、プラザキサはトロンビンを直接阻害するため、増大期のトロンビンによるpositive feedbackを抑制するとともに、開始期に産生されるトロンビンの活性も阻害できる可能性が考えられます。

プラザキサをより安全で効果的に投与するために

Q.プラザキサを安全かつ効果的に投与するためにはどのようなことに注意すればよいでしょうか。

プラザキサは発売当初、定期的なモニタリングによる用量調節が不要であることがメリットとされてきました。しかし、抗凝固薬である以上、出血と梗塞のリスクは常に存在していますので、投与にあたっては安全性と有効性をどのように担保していくかが非常に大切であると思います。

まず、安全性を評価するための指標として、内因系凝固を反映する活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)が挙げられます。ワルファリンでは、治療域を維持するための用量調節に外因系凝固を反映するプロトロンビン時間国際標準化(PT-INR)が用いられますが、トロンビンは外因系凝固の律速段階である第VII因子活性には影響を及ぼしませんので、血中ダビガトラン濃度はPTよりもaPTTとの相関が強いと予測されます(図4)8)。aPTTの延長は、プラザキサがトロンビンによるpositive feedbackを抑制し、その下流の第V因子、第X因子の活性化を抑制することに起因し、有効血中濃度範囲内におけるaPTTの延長率は大きく、aPTTの過剰な延長は出血リスク上昇の可能性を示すことが報告されています。しかし、aPTTは標準化された検査方法ではなく、検査試薬の違いなどによる施設間差を考慮する必要があります。また、プラザキサの血中濃度にはトラフ期とピーク期がありますので、採血時間によるaPTT値の変動にも注意しなければいけません。さらに、血中ダビガトラン濃度が高い領域ではaPTTの延長率が鈍くなることにも注意が必要です(図4)。

そこで検討されているのが、希釈トロンビン時間法を用いたHemoclot Thrombin Inhibitor Assayです。本法は患者血漿にトロンビンを添加して凝固するまでの時間を測定し、そのキャリブレーターにダビガトランが利用されているため、間接的に血中ダビガトラン濃度を推定することができます。出血リスクは、個人差も大きく血中薬物濃度から一概に評価することはできませんが、血中濃度上昇に伴う出血・塞栓イベントの発生率は、高齢になるほど高くなることが報告されています9)。したがって、年齢や腎機能、人種差などを考慮して血中濃度を測定することは、安全性を評価するために意義があるものと考えています。また、服薬状況の確認や投与時の出血に対しても中和薬を使用する際のチェックなどに活用できる可能性が考えられます。

一方、有効性を評価するための指標としては、一般的な血栓マーカーであるD-dimerや可溶性フィブリン(SF)/フィブリンモノマー複合体(FMC)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)が挙げられます。例えば、SF/FMCが投与開始前に基準値よりも高かった場合、投与中に低下の継続が確認できれば、プラザキサによる効果が得られている可能性が示唆されます。また、血栓マーカーが急激に上昇した場合には、十分な効果が得られていない可能性があり服薬アドヒアランスや投与量を再検討する必要があるのではないかと推測できます。

このように、プラザキサでは一つの凝固検査によって安全性と有効性を評価することは困難であり、複数の検査を組み合わせて用いる必要があります。したがって、プラザキサを投与する際は、ワルファリンでの「定期的なモニタリング」という概念ではなく、「チェック検査」として凝固検査を捉える視点が重要であると思います。

本日はありがとうございました。

文献
  • 1)Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151.
  • 2)Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2010; 363: 1875-1876.
  • 3)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
  • 4)Granger CB, et al. N Engl J Med 2011; 365: 981-992.
  • 5)Giugliano RP, et al. N Engl J Med 2013; 369: 2093-2104.
  • 6)Komori M, et al. Circ J 2014; 78: 1335-1341.
  • 7)Hagii J, et al. Stroke 2014; 45: 2805-2807.
  • 8)Stangier J, et al. Br J Clin Pharmacol 2007; 64: 292-303.
  • 9)Reilly PA, et al. J Am Coll Cardiol 2014; 63: 321-328.