プラザキサ 製品紹介直接トロンビン阻害剤の可能性を探るスペシャルインタビュー

直接トロンビン阻害剤投与時における
安全性・有効性の評価方法を探る

家子 正裕 先生

家子 正裕 先生

北海道医療大学 歯学部内科学分野 教授

新規経口抗凝固薬(NOAC)は発売当初、ワルファリンのような“定期的なモニタリング”が不要であることが一つの利点とされてきました。しかし、NOAC投与時においても出血性イベントや血栓塞栓症が認められることもあり、より安全で効果的な抗凝固療法を実現するためには出血ならびに虚血のリスクを評価する必要があります。
そこで今回は、直接トロンビン阻害剤の特徴や投与時における安全性・有効性の評価方法などについて、北海道医療大学の家子先生にお話を伺いました。

NOACによる抗凝固療法の有用性

Q.まず、NOACとワルファリンの違いについて教えてください。

はじめに、2015年5月の国際血栓止血学会において、これまで一般的にNOACと呼ばれていた直接トロンビン阻害剤および第Xa因子阻害剤をDOAC(direct oral anticoagulants)と称することが推奨されました1)。そのため、ここからはDOACと呼ばせていただきます。

さて、DOACとワルファリンの違いについて、現在、本邦で使用されている4剤のDOACとワルファリンを比較した大規模臨床試験のメタ解析の報告2)からお話しします。ワルファリン投与群に対するDOAC投与群全体におけるイベント発生の相対リスク(95%CI)は、脳卒中/全身性塞栓症では0.81(0.73-0.91、P<0.0001)、大出血では0.86(0.73-1.00、P=0.06)であることが示されています。特に、DOAC投与群における頭蓋内出血発現の相対リスクは0.48(0.39-0.59、P<0.0001)であり、ワルファリン投与群と比べて52%有意に低下したことは興味深い結果と言えます。ワルファリン投与下における頭蓋内出血発現リスクには人種差が存在することが報告されており、アジア人では欧米人と比較して約4倍そのリスクが高いことが分かっています(図1)3)。そのため、ワルファリンと比べて頭蓋内出血の発現リスクが低いDOACの投与は、欧米人と比べて頭蓋内出血を発現しやすい日本人を含むアジア人にとって、メリットは大きいと考えています。

Q.ワルファリンと比較してDOAC投与下における頭蓋内出血発現率が低い理由として考えられることは何でしょうか。

頭蓋内には、組織因子が多く発現しており、活性化した第VII因子(VIIa)と複合体を形成することで凝固反応が開始されます。ワルファリンでは、血液凝固カスケードにおけるビタミンK依存性凝固因子であるプロトロンビン(第II因子)、第VII因子、第IX因子、第X因子の産生が阻害されるため、凝固反応の開始起点となる組織因子と第VIIa因子の複合体が減少している可能性が考えられます。一方、DOACは第VII因子を阻害しないため、凝固開始期の凝固反応が保持されることにより、ワルファリンと比べて頭蓋内出血の発現率が低くなると推測されます。また、半減期の長いワルファリンは血中濃度がほぼ一定であるため、凝固反応を抑制した状態が継続されますが、DOACは半減期がワルファリンと比べて短く、血中濃度が低いトラフ期には抗凝固作用がほとんどなくなり、止血に必要な残存凝固能の保持に寄与すると考えられます。

直接トロンビン阻害剤の特徴

Q.凝固反応におけるトロンビンの役割を教えてください。

トロンビンは凝固、線溶、炎症反応などに関連した生理作用を有するセリンプロテアーゼであり、プロトロンビンにプロトロンビナーゼ複合体が作用することにより、メイゾトロンビンを経てα-トロンビン(トロンビン)となります。

今回は細胞性凝固反応4)を用いて凝固反応におけるトロンビンの役割をお話しします。血管内皮細胞や単球などに物理的・化学的凝固刺激が加わることによって、細胞膜表面に発現した組織因子に第VIIa因子が結合して、微量の初期トロンビンが産生されます(凝固開始期)。初期トロンビンは血小板や凝固因子を活性化し、活性化血小板膜の陰性荷電リン脂質上で活性化された内因系凝固因子からなるXase(Tenase)を形成します(凝固増幅期)。Xaseにより第X因子が活性化されることで大量の第Xa因子が産生され、第Xa因子は活性化血小板膜の陰性荷電リン脂質上で第Va因子とプロトロンビナーゼ複合体を形成します。プロトロンビナーゼ複合体により、プロトロンビンから膨大なトロンビンが産生され(凝固増大期)、このトロンビンが凝固増幅期にpositive feedbackをかけることにより、さらに大量の第Xa因子、次いでトロンビンの産生を促し、トロンビン過剰状態(トロンビンバースト)となり、血栓形成(安定化フィブリン形成)へと至ることになります。このようにトロンビンは凝固反応において重要な役割を果たしていることから、抗凝固薬の投与目的は、フィブリン形成の引き金となるトロンビン過剰状態(トロンビンバースト)を阻害することであると考えられます。

Q.直接トロンビン阻害剤の抗凝固機序を教えてください。

直接トロンビン阻害剤であるプラザキサは、最大の凝固促進作用を持つ酵素であるトロンビンの活性中心に選択的に結合し、凝固開始期における初期トロンビンおよびpositive feedbackするトロンビンの活性を阻害することにより凝固増幅期を抑制します。その結果、トロンビン産生速度を低下させ、トロンビンバーストを阻害することにより、抗凝固作用を示すと考えられます(図2)5)。一方、第Xa因子阻害剤は、凝固増大期のプロトロンビナーゼ複合体内の第Xa因子を阻害することにより、トロンビン産生量を減少させ、若干ながらトロンビン産生速度も低下させることで抗凝固作用を示すと考えられます。

また、形成された血栓の中には、活性化血小板や凝固因子が豊富に含まれていますので、凝固反応が次々に進行し、血栓自体が新たな血栓形成の場になると考えられます。プラザキサは、血中にフリーの状態で存在しているトロンビンのみならず、フィブリンに結合したトロンビンも阻害することが知られていますので、強力な血栓形成部位である血栓に対しても抗凝固作用を期待できると考えられます。

直接トロンビン阻害剤投与時における
出血リスク・抗凝固効果の評価方法

Q.プラザキサ投与時における出血リスクはどのように評価すればよいでしょうか。

出血リスクの評価には、抗凝固薬投与前の出血傾向を確認する出血病態の評価と、抗凝固薬投与に伴う出血傾向を確認する残存凝固能の評価があります。出血病態の評価にはHAS-BLEDスコアなどが用いられると思いますが、今回はプラザキサ投与時の残存凝固能の評価方法について考察したいと思います。

前述の通り、プラザキサは活性化された内因系凝固因子からなるXaseにpositive feedbackをかけるトロンビンを阻害することにより凝固増幅期を抑制するため、血中ダビガトラン濃度は内因系凝固因子のスクリーニング検査である活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)にある程度相関します。そのため、aPTTは残存凝固能の評価に用いられます。2013年に欧州不整脈学会から発表された「NOAC使用の実践的ガイド」においても、プラザキサ投与時にトラフ期のaPTT値が正常値上限の2倍を超える場合、出血リスクが上昇している可能性があると記載されています6)

しかし、aPTT試薬の種類によってダビガトランの感受性が大きく異なることに留意する必要があります。例えば、6種のaPTT試薬を用いて、さまざまなダビガトラン濃度の血漿サンプルを測定した結果をみると、試薬ごとに異なる反応性を示すことが報告されています(図3)7)。このように、aPTTは標準化された評価指標ではないため、同一のaPTT試薬を用いて経時的に残存凝固能を判断することが重要です。

Q.プラザキサによる抗凝固効果はどのように評価すればよいでしょうか。

抗凝固効果を評価する方法として、血栓マーカーが挙げられます。血栓マーカーは、トロンビン産生から血栓溶解の過程で血中に出現する血液分子マーカーであり、出現時期によって次の4つに分類されます(表)8)

①トロンビン産生マーカー:プロトロンビンからトロンビンが産生された際に出現するトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)、フィブリノペプチドA(FPA)
②フィブリン産生マーカー:トロンビンがフィブリノゲンに作用した結果、産生される可溶性フィブリン(SF)およびフィブリンモノマー複合体(FMC)
③プラスミン産生マーカー:線溶反応により可溶性フィブリンおよび安定化フィブリン上でプラスミン産生に伴い出現するプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)
④血栓形成マーカー:血栓上での二次線溶が活性化されフィブリン分解が起きたことを示唆するD-dimerおよびフィブリン分解産物(FDP)

これらの血栓マーカーのうち臨床現場で汎用されているのは、可溶性フィブリン(SFあるいはFMC)およびD-dimerであると思います。可溶性フィブリンはCa2+存在下で第XIIIa因子により架橋されることによって血栓となるため、血栓形成直前の病態を示唆する凝固亢進マーカーと言えます。なお、SFとFMCの違いは線溶活性による影響の有無であり、FMC試薬では血栓形成直前の可溶性フィブリンだけではなく線溶活性により分解された可溶性フィブリンも検出できます。
一方、D-dimerは血栓形成後の分解産物であるため、抗凝固効果を評価するには時期が遅い場合もあります。また、D-dimerは炎症、妊娠や一過性の凝固亢進時においても値が増加するため、基準値以上に増加していなければ血栓形成の可能性はないと判断できる除外診断マーカーと考えています。

したがって、私は抗凝固薬による抗凝固効果を評価するための血栓マーカーとしては、凝固亢進を示唆するSFあるいはFMCが有用であると考えています。手術後における血栓マーカーの出現例を検討した報告では、SFが術後1~2日で増加するのに対し、D-dimerは術後3~5日にかけて増加することが示されています9)。また、実際にプラザキサを投与している患者さんのD-dimerとFMCを測定したところ、D-dimerはプラザキサが至適濃度の場合でも高値を示すケースがありましたが、FMCでは投与量不足によって血中濃度が非常に低い場合に高値を示しました。このように、FMCは抗凝固効果を良好に反映すると考えられますが、これらの血栓マーカーが抗凝固効果の評価方法として有用であるかも含めて、各施設において、さらなる検討が必要であると思います。

Q.最後に、DOAC投与時のモニタリング検査に対する先生のお考えを教えてください。

有効血中濃度範囲が広いDOACでは、投与量を決定するためのモニタリング検査は原則として不要であると思います。ただし、緊急時における出血リスクや治療効果として抗凝固効果を評価することは重要であり、止血に必要な残存凝固能を判断するための「確認検査」が必要であると考えています。その際、患者さん自身が持っている凝固能・抗凝固能が異なることにも注意しなければいけません。例えば、血液型がO型の患者さんでは凝固因子である第VIII因子やフォン・ヴィレブランド因子(vWF)の血中レベルが低いことが知られていますし、プロテインS欠損症などの先天性血栓性素因を持つ患者さんも本邦では多いです。このような患者さんに同様の投与量で治療を行った場合、前者では出血傾向に、後者では抗凝固作用が十分に発揮されない可能性があります。こうしたことを踏まえて、私は、まず投与量決定の参考にするため、投与前に患者さん自身が持つ凝固能・抗凝固能を確認します。そして、投与後2週間程度で現在の投与量が適切であるかを確認し、その後は年1〜2回の確認およびイベント発生時の確認検査を実施するのが、よいのではないかと考えています。今後、より安全で効果的な抗凝固療法を実現するために、DOAC投与時における安全性・有効性の評価方法に関するエビデンスが集積され、標準化された評価指標が確立することを期待しています。

本日はありがとうございました。

文献
  • 1)Barnes GD, et al. J Thromb Haemost 2015; 13: 1154-1156.
  • 2)Ruff CT, et al. Lancet 2014; 383: 955-962.
  • 3)Shen AY, et al. J Am Coll Cardiol 2007; 50: 309-315.
  • 4)Hoffman M, et al. Haemostasis 1996; 26: 12-16.
  • 5)家子正裕. 医薬ジャーナル 2014; 50: 661-671.
  • 6)Heidbuchel H, et al. Europace 2013; 15: 625-651.
  • 7)Harenberg J, et al. Expert Rev Hematol 2012; 5: 107-113.
  • 8)家子正裕. 臨牀と研究 2015; 92: 281-286.
  • 9)Nakahara K, et al. Thromb Haemost 2003; 89: 832-836.